お知らせ

TOP > お知らせ一覧 > ブログ > 看取り

看取り

私が看護師として働き始めた28年前、病院で亡くなることが当たり前だった。

患者さんにどんな最期を迎えたいか確認することもなく救命処置を行い、あらゆる機械に囲まれて、大事な家族は別室で、医療者だけがベッド周囲を取り囲み、心肺停止状態になってから家族を呼び入れ、お別れをしてもらう形がほとんどだった。

時代は変わり、今はどんな最期を迎えたいと意思表示できる時代になりつつある。
当院に通う80代の男性は、白血病と診断されたが治療を望まず、自宅で家族と過ごすことを選んだ。その意思を家族も受け入れた。病状はおだやかに経過し、笑顔で通院していた。

院長が学会で不在の日、病状は急変した。もしもの時を考え一時入院も検討したが、院長に電話で相談し、本人の意思を尊重し自宅へ帰る方法を選択した。「やっぱり家にかえりましょうか」と伝えると、それまで苦しそうにしていた表情を一変させ、満面の笑みで「家に帰っていいの?」と言われた。

今でもその笑顔が忘れられない。その日の深夜、脈がありませんとの家族からの電話で自宅に駆け付けると、ベッドに横たわった状態で家族に見守られていた。

医師が到着するまで、家族と一緒に体を拭かせてもらった。同居していたお嫁さんは、涙を流しながら「お父さんありがとうね」と声をかけながら丁寧に体を拭いていた。あの時、医師が近くにいないという理由だけで一時入院させなくて良かった。本人の意思を尊重できて良かった。

こんなにあたたかい最期に立ち会えることができて良かったと心の底から思った。医師1人のクリニックで、在宅看取りを行っていくには様々な壁がある。その壁を理由に、患者さんの意思が尊重できない医療機関であってはならない。

今の状況で出来る最善の策を常に考え取り組む医療者でありたい。長くお付き合いした患者さんの人生を、意思を尊重できる医療機関でありたいと、改めて誓う機会をいただいたと感じている。

文責 看護主任 R.T